※記念誌発刊時(2015年4月)当時の内容をそのまま掲載しています。
米 倉 正 直
経済至上主義を優先する経済社会制度の下でもたらされた大気・水・土壌などの汚染による環境破壊、あるいは輸入食料の増加や食の安全に対する意識の低下に伴う健康への被害は後を絶たず、今や人類の生存まで危惧される地球規模の環境異変が指摘されています。
一方最近ではこのような経済社会のあり方を根本的に見直し、現在とは違った経済社会制度の構築を必要とする考えが唱えられています。それは経済性だけを追求するものではなく、健康で自然と共生するゆとりのある社会、物だけでなく生産者と消費者の心が循環する「循環型社会」の実現を目指すべきだとする理念です。
このような理念に基づいて、私たちの身近にある農業生産と食の安全の在り方について考えてみるとき、望ましい農業生産方式は、安全な食料を生産し、自然の生態環境の保全に寄与する有機農法であるとの思いにいたります。そこで有機農法の効用を列挙し、その特徴について考えてみたいと想います。
- 安全で栄養価の高い農畜産物を生産する。
- 有害作用のある化学物質(農薬、化学肥料、ホルモン剤等)を使用せず、河川、湖沼、地下水や自然生態系などの環境保全に寄与する。
- 国内の自然資源や緑肥作物、家畜糞堆肥及び農産物加工残渣などを利用した永続的循環的農法である。
- 原料輸入や製品製造に莫大なエネルギーを消費する化学肥料や農薬を使わない省エネ農法である。
- 自然と調和した作物や家畜の育成を通して生き物との共生意識、自然との一体感を感受し、心の癒し、思いやりなどの健全な精神の醸成に役立つ。
- 「家族的小規模農業」経営、あるいはこれから農業を生活の一部に取り入れようとする「主業+農業」経営に適応する低コスト農法である。
以上のように有機農法を取り入れた有機農業は、単に安全な食料を生産する役割だけでなく、重要な多面的機能を持っていることが理解できます。さらに次の循環図に示すように、この有機農業は、地域内でさまざまな自然環境域や関係産業と提携して、生産物や加工残渣の相互循環流通の中心的役割を担う「永続的・循環的農業」であり、それぞれの部門に安全な生産物や資源(水、大気)を提供すると共に、その部門から土作りや肥料となる素材を供給される中核的存在となります。
この循環が成立する根底には、「農業生産者は消費者の健康(命)を守り、消費者は生産者の生活(再生産)を支援する」と言う相互の「提携の精神」が必要です。この循環方式は単なる物質の循環でなく、生産者と消費者の心が循環するものでなければならないと考えます。このような生産と消費の循環方式がそれぞれの地域で実施される経過を経て、規約の目的に記されている「真に豊かな地域社会」、すなわち「循環型社会」の形成が始動すると考えます。この過程の中で、有機農業は「循環型社会創造の原動力」となる力を秘めていると想います。
この有機農業に秘められた新しい社会の創造力を発揮するためには、消費者の理解と共にその栽培技術の向上確立が必要です。有機農業の栽培生産技術はいまだ確固としたマニュアルが確立しておらず、経営生産者の技能による面が多いので、科学的技術の追求と低コスト生産技術の究明が必要です。それと共に生産者と消費者の提携による経営の方法の検討も重要です。
残された大きな課題解決のために、当研究会は今までの実績を踏まえ、会員相互の連携をより高め、一般市民の理解と行政の協力を得て未来に向かって前進する会であることを望んでやみません。
