※記念誌発刊時(2015年4月)当時の内容をそのまま掲載しています。
有機農業とお茶
エコロジーライフ研究会の発足が、平成12年3月とのこと。その翌年、平成13年10月に、当時の金谷町で我が国初の「有機栽培茶シンポジウム」(事務局:お茶の郷博物館)が開かれました。このとき、米倉正直会長にも組織委員に入って頂きました。これが、お付き合いの始まりだったと思います。
この「有機栽培茶シンポジウム」は、大変大がかりなもので、二日間にわたり、有機栽培茶の全てを網羅したものでした。生産国から、インド、スリランカ、中国、台湾の研究者を呼んで有機茶生産の現状、消費国ではアメリカ、ドイツの実情も報告してもらいました。基調講演は、後に農林水産副大臣を務めた篠原孝さん、食生活ジャーナリストの鳥居ヤス子さんにお願いしました。国内については、有機栽培茶の生産技術や事例報告、さらに、農水省の担当官から、まだ目新しい有機農産物や有機認証制度の課題や今後について細かく説明してもらいました。いま思うとかなり先取り的な内容でした。
このシンポジウムを通じて、改めて「有機農産物」と「有機農業」の違いを認識させられました。同時に、日本で一般の人達が関心があるのは有機農産物であり、有機農業への関心はうすいことも実感しました。これは、十数年前のことですが、現在はどうでしょうか。
このとき、日本オーガニック検査員協会の水野葉子さんが話したアメリカでの体験談が印象に残りました。友人のアメリカの女子学生が、週に一度、大学の有機食品コーナーでパンを買うのだそうです。なぜかと聞いたら、自分は、有機農業の重要さを認識している。しかし、お金がないので、一般より値段の高い有機栽培食品をいつも買うことができない。せめて、自分に出来る協力は、週に一度、このパンを買うことだと言ったそうです。
有機農業とは何でしょうか。自然生態系を最大限に生かして、持続可能は農業を営むことと、私は理解しています。農薬や化学肥料を全く使わないと云うことが前提ではないと思っています。しかし、生態系に影響を及ぼすものは使えません。それで自ずから農薬や化学肥料が制限されるのです。有機肥料であっても生態系に影響するものは不適当ということになります。自然生態系は多様性が基本です。人間に都合のよいものも悪いものもすべて含みます。農業生産上、都合の悪い虫を害虫と言い、良い虫を「天敵」と言っていますが、昆虫図鑑にはこんな区別は記されていません。良い虫だけでも生態系は成り立ちません。これは昆虫だけでなく、動物すべてに当てはまります。勿論、人間の社会についてもいえることです。
仲間内だけでグループを作っても、長続きしないし、生産性のある仕事はできません。異質な人が入って、切磋琢磨することによって、人は進歩します。「やぶきた」だけにしてしまった弊害を、最近気付き始めているのです。
しかし、有機農業を生業とするのは大変です。日本では、まだ、労働や知恵、時間など無形のものの価値にお金を払う意識が足りません。肥料代や農薬代がいらないので安くできるはずだ、なぜ有機農産物は高いのかという消費者もいます。しょっちゅう「風が吹けば桶屋が儲かる」式の変化に富んだ自然の生態系の中で、計画的に生産を上げるのは至難の業です。運を天に任せる部分も多々あります。それでも有機農業には、人を引きつける力があります。おそらく、我々自身が生態系の中の一員だからだと思っています。私自身、有機農業をやっているわけではありませんが、「お茶」と有機農業の根底が全く同じだと思っているのです。多様性の容認と包含、それをもたらす素地が、「茶の文化」です。
有機農業を通して、地球環境を守り、生物多様性を大事にすると云うことは、多種多様な人々が地球上で共存することを認めることであり、人類の平和につながるものです。
最近、「お茶で世界に平和を」という意識を漠然とではありますが、持ち始めています。有機農業も、人類の平和につながるものだと思っています。本会が、単に「エコロジー」研究会ではなく「ライフ」が入っていることに大きな意義があると思っています。継続発展を願っています。
略歴
小泊重洋(こどまり しげひろ)
昭和15年生まれ。大分県出身。静岡県茶業試験場長、金谷町(当時)お茶の郷博物館館長を歴任。現在、茶学の会会長、豊茗会副会長、袋井茶文化促進会会長、NPO日本中国茶芸師協会理事長、世界茶連合会顧問などを務める。
